第1回入学式写真
根津育英会武蔵学園は2022年4月17日で創立100周年を迎えました
武蔵学園史紀伝
高等学校「総合講座」への展開
柿沼亮介

はじめに

 

 武蔵らしい教育活動とは何だろうか。高い専門性を有する教員によって展開される旧制以来の教養主義的な授業は、「本物」に触れる教育として現在でも武蔵の根幹を為している。その際にはパッケージ化された知識を与えるのではなく、生徒の自発性を重視し、回り道をしても自分の力で調べ、考えさせることも重視されてきた。すなわち、研究者であり教育者である教員の専門性と、生徒の自主性が交叉したところに、武蔵らしい教育は立ち現れるといえるだろう。

 こうした武蔵の教育を体現している授業として、「総合講座」を取り上げてみたい。「総合講座」では、教員の専門や関心に関わるものや、生徒からの希望によって作られたものなど、多様な講座が設置されてきた。フィールドワークや実習を伴うものや、座学中心のものなど、内容によって様々な方法をとるが、ゼミ形式で授業が展開される点は共通している。「総合講座」への展開を紐解きながら、武蔵らしい自由な学びの一端を見ていきたい。

 

1 .前史

 

 様々な教員が自らの専門や関心に基づいた講座を開設し、生徒がその中から選んで参加する形式の授業としては、1987 年度と88 年度の2 年間、高1 のカリキュラムに組み込まれた社会科の「現代社会演習」があった*1。

 「現代社会演習」では、社会科の教員によって様々なテーマでの活動が行われたが、そのうち北海道での農業実習についての記録が残されている*2。このプログラムは地理の加藤侃教諭(当時)によるもので、1988年の8 月9 日~18 日にかけて、5 人の生徒が北海道上川郡新得町の農家で武蔵の卒業生でもある芳賀耕一氏(48期)のもとで実習を行った。生徒たちは水道のない山小屋に寝泊まりしながら、自炊して生活を送った。そして鶏の卵とり、水やり、餌やりという仕事を与えられ、鶏を絞めて解体することも経験した。また、卵を売りに行きながら、付加価値をつけることで通常の卵の4 倍近い利益を生むことを学んだ。

 このように、農作業を体験するだけにとどまらず、自然と人間との関係や、人間の暮らし、さらには経済活動の基本に向き合う実習が行われ、これは「家庭科」や「総合的な学習の時間」の教育理念とも通底するものであったといえよう。実際、加藤教諭によるこの講座は、後に「家庭科」や「総合的な学習の時間」において「北海道農(漁)業実習」として発展していくこととなる。「現代社会演習」は2 年で幕を閉じたが、「総合講座」の嚆矢となるものであったと評価することができる。

 また、1987 年度からの教育課程において設置された「自由選択科目」も、「総合講座」の源流の一つとして捉えることができる。この時のカリキュラム改訂では中3~高3 までの各学年で週の総授業時間を減らしたが

資料で見る武蔵学園

これまでの百年と次の百年への展望

根津育英会武蔵学園は2022年4月17日で創立100周年を迎えました

NEWS
TOPICS
 
to-top