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Ⅲ 武蔵大学

大学院

  武蔵大学の草創期においては,もっぱら学部教育の確立という課題に直面していたことから,大学院設置の要求は生まれなかった。しかし,1960(昭和35)年代後半,武蔵大学独自の研究態勢強化のためにも大学院を必要とする機運が高まってきた。当時,新たな認可が極度に制限されていたにもかかわらず,武蔵大学教員の教育・研究における実績が評価され,69年度に経済学研究科経済学専攻修士課程,72年度に同博士課程が設置された。また,73年度には人文科学研究科英語・英文学,ドイツ語・ドイツ文学,フランス語・フランス文学,日本語・日本文学専攻修士課程が発足した。そしてさらに,大学院設置基準の改正によって,経済学研究科は75年度より博士前期(修士),博士後期からなる博士課程へと改編された。

 95年,それまで学部教育の充実に力を注ぎ,大学院設置を見送っていた社会学科が,人文科学研究科に社会学専攻修士課程を設置した。これを待って人文科学研究科に博士課程を設置するという懸案が動き出し,97年度に人文科学研究科は欧米文化専攻,日本文化専攻,社会学専攻からなる前・後期区分制の博士課程に改編された。語学・文学専攻を文化専攻と改め,人文学部の学科構成との整合が実現したのである。

 社会的に大学院の位置づけが変化するなかで,経済学研究科も99年度に経営・ファイナンス専攻の区分制博士課程を増設し,2専攻体制に改組した。経済構造の高度化・ソフト化等の社会経済的な環境の変化と大学院教育に対する社会的要求の多様化に応えようとするものであった。研究者養成を中心としたこれまでの伝統を活かしつつ,入学試験制度やカリキュラムについて見直し,研究者養成と同時に高度な専門職に従事する人材の育成,社会人教育をも視野にいれたものに改めたのである。

 2005(平成17)年度からは,経済学専攻と経営・ファイナンス専攻を統合して経済・経営・ファイナンスの1専攻に再び改めた。この改組は,専攻の垣根を取り払って複雑化・多様化する社会的ニーズに応える,定員をより実態に即したものに設定する,という2つの目的を持ったものである。この1専攻のもとでの博士前期課程は,博士後期課程への進学を前提とする「研究者コース」と,社会から要請されている高度な専門知識の習得を目指す「高度職業人コース」の2コースからなる。さらに「高度職業人コース」は,博士前期課程修了後に就職を希望する学生を対象とした「キャリア別プログラム」と,社会人または社会人経験者を対象とした「テーマ別研究プログラム」の2つから構成されている。博士後期課程は,大学やシンクタンクなどの研究機関における研究者養成を目的としている。

 人文科学研究科も07年度より博士前期課程の各専攻ごとに「研究者コース」と「キャリアアップ・生涯学習コース」を設けた。大学院での勉学を志す社会人をはじめとする新たなニーズの受け皿として用意した「キャリアアップ・生涯学習コース」には,さらに具体的な「キャリアアップ小コース」(教員能力開発・学芸員研究能力開発・専門社会調査士資格取得)と「生涯学習小コース」(語学力強化・文化交流研究・日本伝統文化研究・総合的ジェンダー研究など)をそれぞれ置いて,出願時および在学中の指針となるようにした。また「キャリアアップ・生涯学習コース」においては学位論文作成のかわりに「特定課題研究」に取り組むことを修了要件として課し,博士後期課程への進学を志す場合には「研究者コース」へのコース変更手続きを行ったうえで,学位論文を作成・提出して審査に合格しなければ受験資格が得られない,という制度にした。

 さらにこのコース設定と併せ,人文科学研究科では早期修了制度・長期履修制度・大学院進学奨励学生制度という三種類の履修特例をスタートさせている。早期修了制度とは,一定の条件を満たした成績優秀な学生にかぎり,博士前期課程在籍1年での修了を認めるものであり,長期履修制度とは,学生の事情に応じ時間的・経済的に余裕をもって勉学を進めることを可能にしたものである。また大学院進学奨励学生制度は,武蔵大学の人文学部および社会学部の学生が3年次修了の時点で一定の条件を満たしていれば申請することができるもので,学部4年次の段階で大学院科目等履修生の資格を得て本研究科の設置科目を履修し,成績優秀と認定されれば大学院入学試験のうち筆記試験を免除のうえで入学許可が得られるとともに,入学後は早期修了制度を利用すれば在籍1年で修士の学位を取得することも可能,という制度である。人文科学研究科はこうした魅力的な履修特例を設けて,学部学生に対し大学院進学をキャリア形成上の選択肢のひとつとして捉えるよう促すと同時に,大学院教育の質的向上を図っている。

 人文科学研究科は,設置翌年の1974(昭和49)年度より成蹊大学大学院と単位互換協定を結び,98年度からは成城大学大学院も加わって現在に至っている。社会学専攻は,これに加えて4国立大学大学院を含む22校からなる「大学院社会科学分野の単位互換制度」に設立時から加盟している。欧米文化専攻も「大学院フランス語フランス文学専攻に関する単位互換制度」の一翼を担っている。また,経済学研究科は97年度より成蹊大学大学院,成城大学大学院,上智大学大学院と単位互換協定を結び,98年度から学習院大学もこれに加わっている。

 なお,経済学研究科では,86年の経済学課程博士第1号を皮切りに2012(平成24)年度末までに計11名の博士号学位授与者を,人文科学研究科では,02年の課程博士(人文学)を皮切りに12年度末までに人文学8名,社会学5名の計13名の博士号学位授与者を生み出している。

  • 武蔵のあゆみ
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