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Ⅲ 武蔵大学

大学保健室・学生相談室

 大学創立以来,大学保健室は,学長・高校中学校長(のち学園長)直属の部署として高校中学保健室と一本化された組織であったが,1994(平成6)年4月に組織が改正され,学生部に所属する組織となった。さらに,2006(平成18)年6月には,学生部が学生支援センターとなり,それにともない大学保健室と学生相談室は事務機能が統合され,以降,同センターのもとで,両者は緊密な連携をとって一体的に運営されている。なお,大学10号館の新設に伴い07年より大学10号館1階に位置している。

 また,これまで法人職員・大学教員の健康管理業務も大学保健室が担っていたが,11年1月より,総務部に教職員健康管理室が設置され,学園教職員の健康管理に対する責任体制の明確化が図られた。

 学生相談室は,90年,学生有志による「学生相談室を創る会」から当時の学生部に設置の要望が提出され,1年余の準備期間を経て92年に開室した。学生部長が室長を兼務し,実質的な業務のとりまとめは教員兼務のコーディネーターが行った。なお,設置当時から大学3号館1階に位置し,02年には改装され以前の1.2倍のスペースが確保された。

《大学保健室》 

 大学保健室の主要な業務は学生に対する健康管理である。学生は「学校保健安全法」により年に1度,定期健康診断を受けることが義務付けられており,健康診断受診率は93~95%を維持している。06年に出された文部科学省の指導もあり,健康診断結果は結果の如何にかかわらず全員に通知し,その内容に応じて一人ひとりへの保健指導や健康相談を行っている。なお,健康診断の目的は,1970年代半ばごろまでは結核の予防・発見にあったが,次第に腎臓・心疾患・糖尿病などの対策に焦点が移り,80年以降になると生涯保健の見地から生活習慣病も対策に加えられ現在に至っている。問診票に記入された心身症状についても,気になるものについては来室依頼し面接を実施している。この10年間では,肺結核・糖尿病・本態性高血圧・悪性腫瘍・心臓疾患・甲状腺疾患等の発見につながっており,健康診断後の適切な措置が重要である。内科校医や保健師との面談を中心に,必要時は学外医療機関への紹介を行い,早期介入・早期治療へつなげている。なお,女子学生特有の健康問題に対応するため,09年からは婦人科医の相談日を設定し,相談者は年々増加している。

 また,07年に発生した大学生の麻疹流行,09年の新型インフルエンザ対応など,近年では学校における感染症対策が改めて重要視されている。武蔵大学でも,6カ月で約500名の新型インフルエンザの罹患報告があった。幸い重症化した者はいなかったが,これらの事象は,一人ひとりの健康を守るためのみならず,集団に対する安全管理・リスク統制という意味でも,大学における保健管理の重要性が見直される機会となった。

 一方,70年代前半から統合失調症など精神面の相談も増加してきたため,それまで内科医師のみであった校医に加え,77年に精神科校医を委嘱,保健師とともに相談対応にあたっている。92年に学生相談室が開設され,大学保健室での精神症状を主訴とする相談件数は減じたものの,現在も入学時よりうつ病などの精神疾患や発達に困難を抱えている学生等に対し,教員や学生相談室,他部署と連携を図りながら就学中の支援を行っている。

 また,緊急時対策として06年より順次AED(自動体外式除細動器)を導入,現在は江古田・朝霞校地合わせて4台が設置されている。

 大学保健室で対応する学生は,様々な問題を抱えている。学業と過度なアルバイトによる不規則な生活は,睡眠不足,過労の原因ともなり,健康破綻をきたしかねない。長引く不況による就職活動の長期化は,疲労による様々な心身症状を引き起こしている。なお,11年には東日本大震災が発生し,将来に亘る健康影響も懸念される。

 健康相談はこの10年間では年間300件前後で推移しており,相談内容も内科,外科,婦人科,皮膚科,整形外科,スポーツ障害,精神症状などあらゆる領域にわたっている。大学生の身体症状と精神症状は切り離せない関係にあるため,どのような相談であろうとも常に心身両面の対応が欠かせない。

 今後の健康管理面での課題は,飲酒や喫煙など生活習慣に対する健康教育の充実,受動喫煙を防止する環境作りの提案,障がいや心身の困難を抱える学生に対する修学支援への学内連携の模索等があげられる。

《学生相談室》 

 92年に開設され20年を経た学生相談室は,学内の心理的援助の場として定着している。心理的相談を中心とした個人カウンセリングに加え,日常的な学生生活のサポートをコミュニケーションスペースというフリースペースで対応しており,学生の心理的な成長を支える個別相談の場として,あるいは,対人コミュニケーションの場として,学生や保護者に利用されている。教職員の指導学生への対応についてもコンサルテーションという形で支援を行っている。その他,教職員に対し98年より,内外の講師を招いての「武蔵大学の学生相談を考える会」を毎年開催(07年より「オータムセミナー」へ名称変更)しているほか,学生対象のグループワークを年に数回コミュニケーションスペースにて実施している。

 なお,開設当初より,教員コーディネーター以外は臨時職員で構成されていたが,01年に,学生部を中心とした「学生相談のあり方検討プロジェクト」が立ち上げられ,専任カウンセラー教職員の必要性などを核とした中長期的な提案が大学執行部に申し入れられた。その結果,03年より,事務嘱託職員(カウンセラー資格なし)が採用され,さらに潜在的な学生のニーズに対応する必要性から,11年にはカウンセラー資格を持つ事務嘱託職員の採用に至っている。

 学生相談室における面接等利用者の動向についてみると,近年の学生全体に対する相談来談率(相談に訪れる学生数/全学生数)と来談者実数は,11年度1.66%(84人),10年度1.15%(53人),09年度1.53%(68人)であるが,より積極的に利用してもらうという点からは,当面10年前の水準である3%前後(来談者実数約150人)への引き上げが一つの目安と考えられる。来談時の主訴は,対人関係・学生生活・身体精神症状・心理性格・履修等多岐にわたる。一方で,コミュニケーションスペースの利用者は年間平均3,000件,もっとも多い月で約500件,1日平均25人の利用があり年々増加傾向にある。したがって,自分の居場所を探して来室する学生が安心して快適に過ごすことが出来ているかという点についても検討の余地がある。

 その他の課題としては,昨今の学生が抱える問題に鑑み,次のような点が挙げられる。・学業不振や休学学生への支援,・精神障がい・発達障がいを抱える学生への支援,・就職活動に困難を抱えている学生への支援,・事件・事故,自死などに対する危機介入等である。今後も他の教職員との連携を図りつつ,こうした課題に取り組んでいく必要がある。

 なお,大学全体で学生教育を考える時,学生への心理的成長を促進する教育的役割をどこが果たすのか,学生相談室にもその機能を担わせるのかという問題は依然として残っている。

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