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Ⅲ 武蔵大学

経済学部

 1949(昭和24)年4月,武蔵大学は経済学部経済学科という単学部単学科で発足した。敗戦から4年目,疲弊した国民生活の続くなか,大学進学希望者はまだ多くはなく,初年度入学生は約70名と入学定員120名を満たさないままでのスタートとなった。

 50年度の経済学科のカリキュラムでは,一般教養科目40単位以上,外国語2カ国語で36単位以上,専門科目80単位以上,演習(ゼミナール)16単位以上の履修が必要とされている。語学重視という点に旧制高校のカリキュラムの特徴が残されており,全体としてきわめて多い科目の履修を義務づけるものであった。

 また,当時,一般教育部門の設置が認められていなかった医学部・歯学部への進学希望者に対する教育も行っており,これは医歯学進学課程(プレメディカル・コース)として整備されていった。この課程の開設は,旧制高校の理科教育の伝統を継承していたことで可能だった。

 大学発足当初の教員は,大半が旧制武蔵高等学校からの移籍者で教養課程を担当したが,52年度までには専門課程担当の教員もそろい,53年3月,初の卒業生を送り出した。この年,旧制大学最後と新制大学最初の卒業生が同時に社会に出るため就職難が心配された。しかし,学園の教職員,父兄会,同窓会の支援と学生自身の努力により,卒業生はそれぞれの進路を決めることができた。

 57年度には,教職課程の教育も開始された。大学における教育・研究をさらに充実させるために,例えば,学部・学科の増設が考えられた。小規模大学であることは長所もあったが限界もあったからである。はじめ大学は,将来理科系の学部を増設する可能性を考慮し,経済学部と理工学部との橋渡し的役割を担いうる学科として,工業経営学科の増設を検討した。しかし,経営学に対する時代的な要請と関心を考慮し,工学系のスタッフと施設をただちに強化することの困難もあって,最終的には経営学科の増設を決定した。

 経営学科(入学定員150名)が発足したのは,大学創立後10年を経た59年4月であった。学科内に工業経営コース,経営管理コースを置き,プレメディカル・コースも経営学科に含めた。59年度の経営学科のカリキュラムでは,一般教育科目36単位以上,外国語2カ国語計18単位,保健体育科目4単位,専門教育科目74単位以上となっていた。なお,プレメディカル・コースは,医歯学部への進学制度が変更されたため,61年度入学者を最後に廃止された。

 工業経営コースは,経済と技術の統合的研究という学際的領域に対応するコースであり,時代を先取りするものであった。しかし,応募学生の数が予想外に少なかったこともあり,このコースの維持は大学経営の点から重い負担となった。そこで,大学は65年4月に,次年度より管理論体系を中心にしてカリキュラムを改訂し,コース分けを廃止するので工業経営コースの募集は行わない方針であることを発表した。この方針は工業経営コースの学生にとっては衝撃であった。そのため,学生自治会は白紙撤回を要求したが,大学はすでに入学している学生を対象とする移行措置を説明し,改訂の趣旨と事情を述べて理解を求めた。その結果,大学は学生の同意をほぼ得られたと判断し,新カリキュラムを66年度より実施した。

 60年代後半は,日本においても世界においても,大学または学問そのものに対する批判,懐疑が提起された時代であった。武蔵大学においても学生からの問題提起に応えるため,共通的な問題から検討し,具体的に結論が得られたものは適宜実施することにした。カリキュラムについてみると,69年度から新しいゼミナール制度を実施した。70年度からの改訂で,従来の教養課程の科目を後期課程(専門課程を改称)にも置き,前期課程(教養課程を改称)に置く専門科目を増加させた。幅広い教養を与える一般教育科目を3,4年生が,専門教育科目を1,2年生が履修することは,もともと武蔵では可能であったが,それをさらに容易にするためであった。専門科目についてみると,経済学科は,A群(経済理論,経済史),B群(経済政策,財政・金融),C群(経営・会計,法律)に,経営学科は,A群(経営学,経営管理),B群(会計,法律),C群(経済学)に編成された。

 73年度から経済学部の学生定員は,大学設置基準上の必要専任教員数に見合うかたちで,経済学科200名,経営学科200名に改められた。

 70年代後半から80年代のカリキュラム改訂の内容は,総単位数を大学設置基準に近づけるようにという文部省の方針に合わせて減少させつつ,大学教育に対する社会の現実的・実践的役割の期待に応えようとするものであった。その結果,近代経済学の方法による科目やコンピュータ関連科目を強化し,「実践企業経営論」のような実務家による経済の現場により近い内容の講義を新設した。その一方で,一般教育科目について卒業に必要な単位を36単位以上から24単位以上に改めた。また,外国語教育については受講者数が通常クラスの半数規模である英会話クラスを新設した。経済学科・経営学科はこのような数次のカリキュラム改訂を通じて,学問研究の発展と社会的要請に即した教育を行っていった。

 92年4月には,金融学科(入学定員80名)を開設した。金融分野は,金融現象の国際的,国内的な拡大により,金融機関の行動はもとより,企業の資金調達・運用も世界金融市場とのつながりを深め,この傾向は,情報技術の新しい展開によって加速されていた。このような状況下では,金融現象を従来の経済学における金融論や経営学における財務論などで解明することは不可能となり,それらを統合した形で総合的・統一的に理解することが不可欠となってきた。金融学科は,その新しい金融学(ファイナンス)の発展をふまえて,その研究・教育の実践を目指す学科である。金融学科は,理論から政策,歴史,さらに現実の具体的課題を扱う領域に至るまで多角的に学べるように,カリキュラムの柱を金融理論・金融史,金融システム,経営財務論・投資論の3区分とし,それぞれを比較的平易な内容のものから専門的かつ高度な内容のものに及ぶように科目を編成した。

 91年度から「臨時的定員増」の一環として改められていた経済学科240名,経営学科240名という定員は,金融学科の設置にともない,経済学科200名,経営学科200名,金融学科80名となった。その後,臨時定員増の廃止により,定員は漸次削減されたが,2008(平成20)年の全学的な収容定員の変更の結果,12年時点では,経済学科150名,経営学科150名,金融学科100名の400名となった。

 91年度の大学設置基準の改正による教育課程の基準要件の緩和(いわゆる大綱化)をうけて,96年度からカリキュラムの改訂を行った。一般教育科目の廃止により,科目区分を基礎教育科目,総合科目(新設),専門科目の3区分としたこと,科目区分にとらわれない任意選択科目を新設したこと,外国語科目を見直したこと(経済学科は2カ国語,経営・金融学科は1カ国語のみ必修),専門ゼミナールを見直したこと,情報関係の科目を増加し,各学科の専門科目の再検討を行ったこと,などがその内容である。

 その後も,経済社会の要請と学生の志向の変化に対応するために,2004(平成16)年と11年にカリキュラムの改訂を行った。この2度にわたる改訂の特徴は,明確に定義されたコース制を導入し,そのコースとゼミを結びつけたことである。現在(12年度)採用されている10年度に改訂されたカリキュラムの特徴は次のようになっている。

 コースは相互に関連の深い専門科目群から構成されている。「国際経済・経営」「経済学と現代経済」「ビジネス」「ビジネスデザイン」「企業会計」「金融」「証券アナリスト」の7コースがあり,それぞれの専門領域について系統的に学べる仕組みとなっている。コース名からも判るように,経済・経営・金融の各学科との結びつきが強いコースもあれば,学科を跨ぐコースもある。例えば,「国際経済・経営」コースでは,国際という統一的な視角から経済・経営・金融の幅広い領域を学ぶことができる。また,留学を目指す学生などにとっては,留学前・留学後を含めて英語を集中的に学ぶことも可能である。逆に,経済理論・経済史・経済政策・財政などの科目からなる「経済学と現代経済」コースは経済学科と,経営戦略・組織論・マーケティング・人事管理論などの科目からなる「ビジネス」コースは経営学科と,金融論・ファイナンス・証券市場論などの科目からなる「金融」コースおよび証券アナリストの資格取得を目指す「証券アナリスト」コースは金融学科と,それぞれ強い結びつきがある。「ビジネスデザイン」コースは経営学科と関連が深いが,情報技術を活かして新しいビジネスを立ち上げたり,企業内で新規プロジェクトを始めたりするに必要な能力の構築を目指している点に特徴がある。財務会計・管理会計など会計学の基本とそれに隣接する法律・ファイナンスなどを学ぶ「企業会計」コースは,経営学科と金融学科に跨がる科目群から構成されている。

 経済学部のコースの特徴は,第1に学生が自分の所属学科にはとらわれずコースを選択できることである。例えば,経済学科の学生であっても,経営学科と関連の深い「ビジネス」コースを選択できる。これは,経済学部の学生の多くが,入学時点では自分が真に学習したい分野が何かを明瞭に把握できていないことに対応したものである。第2の特徴は,ゼミとコースがセットになっていることである。学生は2年進級時にゼミを選択し,それが同時にゼミの配置されているコースを選択することになる。ゼミ活動で身につけることが期待されている「課題設定能力」と「課題解決能力」は,専門分野の学習が前提となる。つまり,このカリキュラムが目指しているのは,ゼミとコースを両輪として学習効果を高めることである。

 経済学部のゼミ活動のハイライトは,毎年12月に開催される「ゼミ対抗研究報告会」(以下,ゼミ大会と略記)である。ここでは,分野ごとに分かれた会場で各ゼミの代表が日頃の成果を競い合う。武蔵大学の教員と同窓生を中心とした社会人がコンビを組んで,研究と実践の両面から審査を行い,会場ごとに優勝および準優勝チームが選ばれる。現在のゼミ大会は04年に第1回大会が催されたが,当初は参加ゼミ数も限られたものに過ぎなかった。しかし,年々参加ゼミ数が増えてきており,各会場で熱気と意欲に溢れた報告がなされている。

 ゼミ大会の代表に選ばれなかった学生も含め,日頃のゼミ活動では,自分で課題を見つけ,その課題について自ら調べ自ら考え,まとめた考えを的確に人に伝え,さらには人の意見を聞きながら自分の考えを深めていく,という姿勢が求められる。そのプロセスにおいて,ゼミの仲間たちと協力しあい,教員にも積極的に働きかけて知恵を借りる,といった行動力とチームワークが鍛えられる。課題設定能力と課題解決能力,行動力とチームワークは,社会のどの分野に進もうとも必要とされる基礎的な力である。コースと密接に関連するゼミ活動を通じて社会人としての土台作りをする,これが経済学部の目標である。

 そのほか,00年度からファカルティ・デベロップメント(FD)検討委員会が,教育方法改善のための活動の一環として学生による授業評価アンケートを開始した。また01年度から,大学での学習と企業や地方公共団体などにおける仕事のあり方を結びつける実践的な教育を目指すインターンシップが始まった。現在,この両者は経済学部のみならず全学的な取り組みとして展開されている。

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