もくじを開く
エクステンション(社会貢献活動)
大学におけるエクステンションとは,一般的に,教育・研究活動によって得られた成果や研究活動を通じて得た知見,人的資源等を地域・社会に開放し,大学の使命の一つである「社会貢献」を積極的に果たす活動であるといってよい。これは,特に1980(昭和55)年代以降,臨時教育審議会の4次にわたる答申で「生涯学習体系への移行」等の提言があり,生涯学習進行整備法の施行を背景に,大学改革の一環として推奨されてきたものである。
武蔵大学は草創期以来,後述するように,いろいろな形態の公開講座や講演会,学部の授業の開放,施設の貸し出し,練馬区等の自治体や地域諸団体との連携等を通じて「社会へより開かれた大学」を目指し,社会貢献に対する教職員および学生の意識の向上を図るとともに,その活動を積極的に行ってきた。これらの諸活動のなかには,現在でも継続開催されているものもあるが,中断ないしすでに廃止となったものもある。これは,時代の変化に応じて,活動の実績・成果を常に検証しつつ,より社会に貢献できることは何かを問い直してきたからである。
以下,これまで行ってきたエクステンションの活動内容を紹介する。
1.武蔵大学主催の公開講座・講演会
《学外開催》
1954(昭和29)年7月,「第1回武蔵大学時事経済講演会」が山形市労働会館で開催された。これは,武蔵大学が初めて行ったエクステンションであるといえる。その後10年間にわたり,武蔵大学の教員をはじめとして著名な学者,評論家,作家などに講師を依頼し,「時事経済講演会」あるいは「文芸講演会」という名称で毎年開催されてきたが,63年10月に東京都内で開催された第10回講演会を最後にしばらく中断した。その後77年11月,岡茂男学長(当時)の判断で,静岡市において14年ぶりに地方講演会を復活させ,以後も断続的に開催された。
武蔵大学が草創期に行った「武蔵大学ラジオ公開講座」は,61年1月14日から9月2日までの毎週土曜日の深夜,「土曜ゼミナール」として文化放送の電波にのって放送され好評を博した。当時としては,大学がスポンサーになって定期的公開講座放送を行うことは異色の試みであった。
《学内開催》
現在年2回行われている公開講座の前身は「全学特別講義」である。これは,53年から,学生の教養を涵養する目的で社会の各方面の権威者を講師とし毎月1回開催されてきたが,その後,62年に「土曜講座」と名称を変更し,受講対象を学生のみではなく,地域住民等学外者にも広げた。その後「土曜講座」は82年度をもって閉じ,新たな組織体制で「武蔵大学公開講座」として発展していくことになる。第1回は83年2月に開催され,原則として,各回,統一テーマを設け,春期は連続5日間,秋季は毎週土曜日5日間開催するという形式で実施され,2010(平成22)年度からは4日間に変更となった。12年度の春季公開講座で通算58回を数えるに至っている。
01年度からは,昼間の講座を受講できない有職社会人を対象に,開始時刻を夕方からに設定した「武蔵大学イブニングスクール」を始めた。原則として毎年秋季と春季の2回,学内で開催しており,いずれも統一テーマのもとにワンクール5~6日間で行われた。その後,10年度からは年1回(4日間)に改められた。12年度の開催をもって16回を数える。以上の公開講座は現在も継続開催されており,武蔵大学として中心的なものとなっている。
2.外部の機関との連携による講座・講演会等
武蔵大学は,外部の機関・団体とも積極的に連携し公開講座や講演会等を実施してきた。以下,連携対象ごとに紹介する。
《練馬区教育委員会との共催による事業》
練馬区教育委員会との共催による事業には二つある。一つは「練馬区との共催による公開講座」であり,もう一つは「練馬区・武蔵大学特別聴講生制度」である。
前者は,主たる受講対象を練馬区民とし,練馬区教育委員会の要請を受け,1991(平成3)年度にスタートした。講座のテーマは,毎年,練馬区教育委員会との協議により設定し,武蔵大学教員が講師を務めている。2012年(平成24)年度の開催をもって21回を数える。
後者の「練馬区・武蔵大学特別聴講生制度」は,練馬区在住・在勤者を対象に,高度で専門的かつ体系的な学習機会を提供することを目的に,武蔵大学の授業科目を開放するもので,96年度から実施している。受講できる科目は年間1科目とし,練馬区と武蔵大学が聴講料を補助することにより,費用負担の軽減を図っている。12年度現在,第17期生が受講している。
《公益財団法人練馬区文化振興協会との三大学連携事業》
06年3月,練馬区の文化芸術振興を推進するため,練馬区,同教育委員会,同文化振興協会,武蔵大学,日本大学芸術学部,武蔵野音楽大学が一同に会し,「練馬区文化芸術振興推進連絡会」が設置された。これまで武蔵大学は,講演会,映画会,図書展示会等を行ってきた。09年度には,武蔵大学開学60周年を記念した講演会(日本のアニメ-絵巻物から漫画まで-)と「写し絵」の公演を行うなど,練馬区の文化芸術の振興に寄与している。
《大学同窓会との連携による公開講座》
「武蔵大学土曜講座」は,武蔵大学同窓会との共催により98年度から開催している。講師は,武蔵大学専任教員と卒業生から各1名ずつ選び,おおむね年3回開催しており,12年度現在,39回を数える。主たる受講者が卒業生となっているが,一般社会人の聴講を妨げてはいない。なお,前述の「土曜講座」とは別の性格のものである。
その他に,過去に単発的に開催されたものや,すでに中断ないし廃止となった主なものを時系列に並べると次のとおりである。
《文部科学省支援事業》
99年3月,文部省の「衛星通信利用による公民館等の学習機能高度化推進事業」による委嘱をうけ,第1回の衛星通信を利用した武蔵大学公開講座を実施した。この講座は,武蔵大学を主会場とし,広島県,佐賀県,新潟県,北海道の社会教育施設を副会場として実施された。その後,02年度まで通算5回,この事業の委嘱を受け実施した。
《朝霞プラザ公開講座》
朝霞プラザの新築にともない,主として朝霞市民を対象とした「朝霞プラザ公開講座」を03年に開始した。武蔵大学専任教員が講師を務め,06年まで毎年1回開催した。
《父母の会主催による公開講座》
「武蔵大学父母の会」の主催による「公開講座」は03年度から05年度まで開催された。講師は専任教員のなかから1名を選び,受講者が父母の会会員となっていたが,一般社会人の聴講も受け入れていた。
《練馬区NPO活動支援センターへの参画》
06年度,武蔵大学は「練馬区NPO活動支援センター」に参画した。このセンターは,練馬区内のNPOの運営や活動を支援する全国初のネットワーク型支援センターであるが,武蔵大学は同センターの運営母体として講座・イベント事業を担った。06年11月5日の同センター事業開始記念となる「武蔵大学NPO支援講座」を皮切りに,08年度まで公開講座等を開催し支援活動を行った。
《テンプル大学ジャパンキャンパスとの共催事業》
09年10月,テンプル大学ジャパンキャンパスとの共催で「日米リベラル・アーツ教育考~いま『教養教育』の意義を問う」というテーマのシンポジウムを開催した。
《独立行政法人日本学生支援機構との共催事業》
10年11月,文部科学省および外務省の後援により日本学生支援機構と共催し「東アジアのグローバリゼーションと大学教育の将来」というテーマで国際シンポジウムを開催した。
3. その他の社会貢献活動
上述以外,武蔵大学が行ってきた社会貢献活動をあげると,きわめて多岐にわたっている。以下「地域貢献」,「地方公共団体等,その他団体等との連携」,「教育システムの提供・研究成果の公表」に分けて紹介する。
《地域貢献》
・江古田駅周辺地域連絡会への参画
江古田駅周辺地域連絡会は江古田駅周辺地域の活性化のために設置されたものであるが,武蔵大学が積極的に参画するようになったのは1993(平成5)年度頃からである。
江古田駅の「地下横断歩道」および新駅舎の建設にあたっては,この連絡会の意向が反映された。この連絡会は,武蔵大学にとって,地域住民からの要望等を直接ヒアリングできる唯一の機会でもあり有益なものである。
・武蔵学園記念室の一般公開
武蔵学園記念室は,94年に開設され,学園関連の資(史)料を展示し,学内外に公開してきたが,その後,11年に展示室等がリニューアルされ,学園の歴史がより一層分かりやすく見学できるようになった。
・大学施設の開放
07年9月に新設された大学10号館には,地域住民との交流の重要性に鑑み,地域活動支援等のための学生・地域活動支援室(会議室)を設けた。しかし,利用頻度の点では当初の予想を満たしていない。
・武蔵学園の桜を観る会
武蔵学園は,従前より大学周辺住民の生活環境に配慮してきたが,95年度から,桜の開花時期に「桜を観る会」を通じて,周辺住民にキャンパスを開放し学内の美しい自然環境に触れる機会を設けている。
・大学図書館の開放
05年度から,練馬区民に対して図書館の開放をしているが,その後,07年度からは,練馬区隣接の地域住民にも拡大した。
・江古田ミツバチプロジェクト
「江古田ミツバチプロジェクト」は,ミツバチを飼育すること,花を植えることで環境保全に努め,採取した蜜の販売や消費を通じて地域の活性化を目指すもので10年3月に始まった。現在約8万匹の蜂を武蔵大学で飼育している。このプロジェクトには,武蔵大学の学生・教職員,地域住民等が参加している。
《地方公共団体等,その他団体等との連携》
・人的(知的)資源の提供
武蔵大学専任教員が,国,地方公共団体,財団法人等の公共的団体から審議会,研究会等の委員等の委嘱を受け,活動することにより,当該団体の政策形成等に寄与している。また,武蔵大学総合研究所や専任教員が練馬区など地域再生のためのシンクタンク的機能を果たすこともある。
・高大連携事業の推進
武蔵高等学校だけでなく,他の多くの高校と武蔵大学との連携を一層推進していくという観点から,各高校のニーズに応じて,専任教員が直接現地に赴いての対面授業や,現地に出張せず直接大学から,遠隔地教育システムを利用した授業を行うなど連携をはかっている。
・学生のボランティア(社会貢献)活動への支援
練馬区教育委員会との協定に基づき,学生による区立の幼稚園,小中学校に対する教育支援活動について,大学として支援している。その他,学生の様々なボランティア活動に対しては奨学金(武蔵大学課外活動奨励奨学金)を給付することにより支援している。
《教育システムの提供・研究成果の公表》
・科目等履修生制度
大学入学資格を有する社会人を,武蔵大学科目等履修生として受け入れ,特定の授業を除いた武蔵大学のすべての講義を受講できる制度を設けている。また,大学院においても武蔵大学大学院科目等履修生の制度を設け,大学院入学資格を有する社会人を受け入れている。
・大学院における高度職業人コースの開設
社会人に対する教育上の配慮として,入学試験に関して社会人が入学しやすくなるように配慮するとともに,博士前期課程においては,コース・テーマごとにプログラムを設け,職場で経験した課題に即したテーマを選択し,課題指向的に研究を行うことができるようになっている。これにより,社会人が日頃の経験に基礎を置いたかたちで,大学院における専門的教育を受けることが可能となっている。
・研究成果の公開
武蔵大学では,研究成果を発表するため『武蔵大学総合研究所紀要』(総合研究所),『武蔵大学論集』(経済学部),『武蔵大学人文学会雑誌』(人文学部),『ソシオロジスト』(社会学部)を刊行している。さらに,研究成果をより広く公開するため,以上の学術雑誌の論文を武蔵大学ホームページ上で閲覧可能としており,さらに12年度末には武蔵大学学術機関リポジトリの運用も開始された。