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カリキュラムの変遷
新制度発足にあたり,高校の課程では単位制ではなく学年制をとったが,科目選択については幾つかの試みがなされた。31期生[1951(昭和26)年入学者]以降は,中学高校一貫の学年制を採りながら,高校2,3年の段階で選択制を導入した。
いわゆる進学校にありがちな文系理系のクラス編成,習熟度別授業といった形態を採らず,すべての生徒が自由に自分の関心と必要に応じて科目を選び,真の教養が身につくよう企図されてきたのが武蔵の教育課程の大きな特徴であるといえる。
戦後の教育改革の変転のなかで,武蔵は建学の三理想,なかでも「自ら調べ自ら考える力ある人物」を育てるという理念を頑なに堅持し,独自の校風を培ってきた。中学の山上・海浜学校や第二外国語,高校家庭科のユニークな少人数講座は,ゆとり教育をうたった前学習指導要領の施行に際し,そのまま「総合的な学習」として継続・発展してきた。
2000(平成12)年に高校入試を廃止して以降は,文字通りの6年一貫となり,各科ともより系統だった学習内容の学年配当を工夫してきたが,12年度から理数が先行するかたちで実施された新学習指導要領改訂を機に,高校理科の学年配当時間を中心に編成の変更がなされた。
学力も関心の所在も多様化していく生徒たちに対して,これまでの授業の高い学問性と自由な選択をどのような形で保証していけるのか。今後も大きな課題である。
分割授業・選択制度
旧制武蔵高校の時代には,語学の分割授業が一つの特色となっていたが,新制に移行してしばらくは,種々の組織替えなどにともなって中止されたままになっていた。1951(昭和26)年,52年に,これを試験的に中学3年の英語の時間に復活させてみたところ,時間割上も無理のないことがわかり,53年から英語,数学の一部で分割授業を実施することとなった。演習を主とするこれらの分割授業の成果を踏まえ,その後,分割授業を導入する科目も増加した。
現在,以下の教科,学年で分割授業が行われている。クラスサイズを半分にした少人数で授業をすることにより,きめ細かい実験・実習の指導,活発な発表・討論などが可能となっている。
英語:中1~高2で全体の授業の63%
数学:中3,高2で全体の授業の48%
理科:中1~中3で全体の授業の46%
国語:高2の現代国語,古典のすべての授業
社会:中3のすべての授業
社会の分割は2010(平成22)年度より導入されたもので,1年をかけて資料収集,プレゼンテーション,討論,論文執筆の方法を学ぶもので,武蔵の新しい目玉として成果を上げている。
現在の選択科目の実施状況は次の通りである。(高校は12年入学生の例)
中3:「第二外国語」ドイツ語,フランス語,中国語,韓国・朝鮮語
のうちから1科目
高1:「芸術」音楽,美術,書道のうちから1科目,自由選択として
の「第二外国語」
高2:「地歴」日本史,地理のうちから1科目
「数学」数1,数2のうちから1科目
「理科」物理,化学,生物,地学のうちから1~2科目,ただ
し高3まで2年間履修自由選択としての「第二外国語」
高3: 「国語」現代国語,古典,漢文のうちから1~3科目
「地歴」日本史,地理のうちから1科目
「数学」数2,数3のうちから0~1科目
「理科」物理,化学,生物,地学のうち,高2で選択した科目
「英語」英語2,英語3A,英語3Bのうちから1~2科目
英語3A・Bはどちらか一方のみ
「体育」体育1,体育2のうち1科目
自由選択科目としての「第二外国語」
特別自由選択科目としての「数2演習」「数3演習」「英語演習」「英語劇」,2科目目の「地歴」科目
高3の特別自由選択科目は09年度から導入されたもので,生徒の実情に応じて年度ごとに検討を加えながら,柔軟な発想で開設されている。
第二外国語
武蔵の第二外国語は,旧制高校以来その時々の教育の理念に従って,あるいは,時に生徒の要望にも応じつつその歩みを重ねてきた。その変遷には大きな幾つかの節目があった。旧制以来のドイツ語はもとより,フランス語・中国語にも30年に及ぶ長い歴史があり,特に1980年代からの国外研修制度の充実と相まったネイティブの講師による授業の拡充と,1990(平成2)年に行われた韓国・朝鮮語の講座新設,中学3年の初級コースの5・6限への組み入れ,第二外国語主任制度を新設して専任教諭が講師を支援する体制,といった制度改革が目を引く。この年7月に「第二外国語のすすめ」第1版を発行し,以後95年に第2版,99年に第3版と続き,生徒の自主的学習意欲を喚起するのに役立った。
2002(平成12)年より,従来の初級コースを「総合的な学習」として中3で必修とした。これは,英語だけでなく,もう一つ新しい「外国のことば」に触れて欲しいという武蔵の理想が反映している。また,この年に「第二外国語のすすめ」第4版を発行。04年,図書館棟が出来たことで,AV設備のある「分割教室」が増え,一層学びやすくなった。05年には,手狭だった第二外国語研究室が旧国語科研究室跡地に移転し広くなり,授業の後も質問に来室して熱心に勉強する生徒にとって,より良い環境になった。同年,「第二外国語のすすめ」第5版を発行。11年には第6版を発行した。
ここ十年来,通常授業に加えて,特別授業や各国からの留学生が来ている時には,交流会なども開かれ,教師の指導で,フランスやドイツからの留学生とのクレープ作り,中国からの留学生との水餃子作り,韓国からの留学生とのチヂミ作りなどは恒例化している。このような言葉を習得することだけでなく,食を含めてその国の文化に触れ,直接留学生とも触れ合うことは,異文化を理解する機会として大きな意味を持っていると言えよう。
高1総合講座
高等学校の学習指導要領で新設された「総合的な学習の時間」を2003(平成15)年度より実施するにあたり,高校1年で講座制の授業を「総合講座」として行うこととした。教師が開講可能な「講座」を予め募って設定し,生徒を希望の講座に割り当てる講座制の授業は,それまで教科「家庭科」で家庭科科目「生活一般」に含まれる内容として行われていた。教師会では,「家庭科」として必要な内容を授業時間内に取り込むべきだとの意見や,それまでの講座制の授業が,むしろ「総合的な学習の時間」の趣旨に適合するとの考えが検討され,講座制の授業は家庭科から総合講座へと引き継がれることとなった。
ここ数年の間に開講された講座の内容は,「株式入門」「水田稲作実習」「瞑想」「競技プログラミング」「対馬研究」「演劇体験」「食文化の研究」「世界の映画を見る」「標本庫学」「幼稚園で学ぶ」「自然を観察する」「法学入門」「現代サッカーの特徴」「古文書解読入門」「音楽鑑賞と調査発表」「フィールドワーク入門」「やぎの研究」等々,かつての家庭科で行われていた時より広範で多岐にわたっている。生徒はこれらの講座を履修するにあたり,然るべき実習・体験・研究・観察を通して,現在および将来にわたって人間としてより良く生きる方法を探り,年度末にはレポートの形で総括し,報告・発表などを行っている。
なお,教科「家庭科」は現在,通常時間割内の授業として高校1年で行われている。
コンピュータ教室の活用
1998(平成10)年度に,文部省(当時)からの補助金を受けコンピュータ教室を設置し,99年度からコンピュータを利用した授業を開始した。
2002年度からの情報教育必修化を念頭に置き,設置当初は,道具としてのコンピュータを意識し,コンピュータ・リテラシーを高めることを授業目標とし,主に中学3年の英語の授業で利用してきた。年度が進むにつれ,家庭でコンピュータを使っている生徒の割合が増えてきた。それにともない,当初のコンピュータ・リテラシーを高めるという目標の重要性が低くなってきた。そこで,「学習の個別化」というコンピュータを利用した学習の利点を生かすべく,リスニング力の養成にその主たる目標を変えていった。
コンピュータ教室設置から6年後の04年,武蔵高等学校同窓会からコンピュータの寄贈を受け,同年2学期より,新しいコンピュータ教室に生まれ変わり,今日に至っている。ノート型のPCに入れ替え,生徒の顔がよく見える教室になった。英語という,コミュニケーションを重視した教科の特性上,この改善は価値あるものであった。
ここ数年は,リスニングに特化した授業を展開している。生徒は自分が納得行くまで聴き直すことができ,学習の個別化が十二分に達成され,リスニング力の向上に大きく寄与してきていると思われる。10年度から実施している英語コミュニケーション能力試験(GTEC)でのリスニング力の高さからも,その成果は実証されている。
国際交流に関わる高大連携
2008(平成20)年から国際交流関連を中心に高校と大学の連携を推進する試みが始められた。以前からも高校中学の教師が武蔵大学に出講し,第二外国語の授業を中心に武蔵大学からも講師を招くことはあったが,この高大連携は学園の財源と人的資源の両面をより効果的に運用することで,とりわけ国際交流の面での活性化を図ろうというものである。
まず,大学,高校中学それぞれで行われている国際交流における危機管理対応を統一的に検討するため,08年に学園内に国際交流委員会(発足当時は小委員会)が設置され,高校中学からは校長と国外研修委員幹事1名(のちに事務長も加わる)が委員となって,学園内の国際交流に関係した企画や提案が検討されることとなった。
国際交流委員会の設置に続き,09年には高校中学と武蔵大学がテンプル大学ジャパンキャンパス(以下,TUJ)と連携協定を締結し,同年10月には記念シンポジウムや講演会が開催された。翌10年からは希望する高校生・大学生を対象に,TUJとの共同企画English Summer School(8月に5日間)が開催され,すべて英語で進められる授業を通じて,米国大学の授業形式を体験したり,留学に備えた学習法を学ぶ機会となっている。
高校と大学の人的交流としては,これまでの出講に加えて高校中学の英語科から2名(現在は1名)が新たに武蔵大学の授業を週1コマ担当することとなった。また,希望する高校生10名ほどを大学の国際センターが開講する留学準備講座(月,水の2講座)に受け入れてもらい,大学生とともに将来の海外留学に備えた授業を受けることが可能となった。上述のSummer Schoolは有料だが,留学準備講座は無料で受講できるようになっている。
高校の生徒国外研修制度においても,武蔵大学の国際センターと連携して研修生の緊急時対応サービスに加入するなど,危機管理の面でも協力関係を構築しつつある。
上述の通り,国際交流や海外進学といった分野では高校中学の生徒が武蔵大学から享受できるサービスも潜在的には多い。ただし,更なる高大連携を進める上では,現実的な教職員の関わり方や組織の問題など,様々な検討課題も残っている。